カツン。
会社の近くにある川にかかる橋を歩いているとき、ふいにそんな音が聞こえた。ありゃ、もしかして何かを蹴ったかな。
一呼吸おいて、ぽちゃん。
慌てて欄干に駆け寄ると、川面に白い泡が上がる。そして、その音や大きさから、自分がつけていた大ぶりのイヤリングの片方を落としてしまったことに気がつく。しまった。いつ落としてしまったんだろう。
落とした場所は川の中だ。当然、自分では入ることができない。調べてみると、大きな落とし物をした場合は、河川事務所などに届ければいいらしいが、こんな小さな相談はかなりしづらい。
あーん、ショックだ、運が悪い。決してものすごく高価なものではなかったけれど、ミニマリストな私の選抜アクセサリーだったわけで……。あと、川を汚してしまったのもつらい。都会の底の見えない川から、私のイヤリングを救出する手段はないのだ。
川はどこにでもある。今日の事件現場も、毎日通っている場所である。しかし、この中にものを落としたら、もう取り戻せないなんて。正直、考えたことがなかった。これがスマホや財布だったら、どうしていたんだろう。ぞっとする。
生きているといろいろな発見がある。暮らしの中に、こんな脅威が潜んでいたことに初めて気がついた。地図をイメージすると、安全なエリアと危険な場所は実は明確に線引されていて、まだらに塗りつぶされているようなものだ。もちろん、川は危険な方だ。
歩きスマホや信号無視、駅のホームに降りちゃうとか。それで事故に遭う人が後をたたないのも、身近な脅威に対して感度が低いからではないのだろうか。看板に危険と書いてなくても、危ない場所はあるのだ。
イヤリングのことは残念だが、大きな発見である。今後、川の近くを歩くときは気をつけよう。片方がをなくしたからって、もう片方も捨てるのはもったいない。イヤーカフでも買って、アシンメトリー風に使えないか、考えてみようかな。