「理念」と「適切な技術」の両輪を

府中市美術館の企画展示『アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで』を見にいきました。

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今から150年ほど前のイギリスから始まりまったアーツ・アンド・クラフツ運動。当時のイギリスは、近代化で便利になった反面、粗悪な日用品も出回る状態。

そこで、詩人でもあったウィリアム・モリス氏が友人と一緒に商会を発足させ、「すべての人の生活に美を」をコンセプトに、壁紙や家具を作っていきます。

古今東西の紋様と自然をモチーフにしたデザイン、天然素材、手仕事の製法、労働環境などにこだわりつつ、ところが、素材や作り方にこだわるほど、製品は値上がり……。結局は、富裕層だけが買える商品になってしまうなど、なかなか理念に近づけません。

しかし、理念は死なない。彼の作った商会の後継者や、若い世代が立ち上げたアーツアンドクラフト展覧会協会がモリス氏の思いを引き継いでいきます。当たり前に存在する日用品は、当時の美術界では評価されにくかったそうですが、そのあたりも情報発信や講演を丁寧に積み重ねていきました。そういった活動の中で、適切な機械活用をするものや理念を理解する日用品メーカーも登場。

やがて、運動はアメリカにも波及していきました。その中で大きな役割を果たすのが、アメリカ人建築家のフランク・ロイド・ライト氏のように、「適切な機械活用」を意識して、たくさんのアイテムを製造できるようになっていきます。そういった技術活用の結果、庶民も美しい手仕事の製品に触れる機会が生まれていったのです。

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この展示を見て一番強く感じたのは、理念と技術の両方があることがいかに大切なのか、ということ。前者が欠ければ粗悪品が出回り、後者が欠ければ大衆のものにはならない。作り手として、理念に定期的に立ちかえるのがいかに大切なことなのか。

また、「美しさとは自然の中にある」というモリス氏のシンプルな考え方は、個人的にすごくしっくりきました。自分も思わず、グリーンを飾ってしまう理由がわかった気がします。「美と結びついた暮らしを見直す」を掲げる府中市美術館。周りは府中の森公園で、帰り道は落ち葉を踏み締めて帰りました。まさに、今回の展示にぴったりの会場という、全体の体験としても素晴らしい企画でした。

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最後に、現在はウィリアム・モリス氏のデザインは、すでに著作権が切れています。そのため、近年は彼のデザインを使ったグッズが100円ショップでも扱われるようになりました。間違いなく庶民もウィリアム・モリス氏のデザインを手に入れやすい状況です。

正直、ここまで商業に乗ってしまうのはちょっと切ないものがありますね……。けれど、暮らしの中にちょっとした美しさを取り入れたいと感じるのは自然な気持ち。だからこそ、どういう理念で彼が手がけたデザインなのか、展示を見た一人としては忘れないようにしたいものです。

有限会社ノオト所属の編集者・ライター/ コワーキングスペース「Contentz」管理人。 テーマは働き方・学び方・メディア・朝ごはん など / 休日は喫茶店と東京宝塚劇場をうろうろ