ありものを生かして理想を追うーーザ・フィンランドデザイン展に行きました

先日、渋谷にあるBunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ザ・フィンランドデザイン展 自然が宿るライフスタイル」へ行ってきました。

洗練されているのにシンプルで美しく、愛らしい実用的な北欧のものづくり……。もちろんシンプルライフ愛好家としても好きなテイスト。

とはいえ、一体どういう思想があるのか、共通点があるのか。いまいちわかっていませんでした。ということで、フィンランドのものづくりを楽しみにレッツゴー。

  • これが50年前? 今にもつながるロングセラーの美しさ

まず個人的に衝撃を受けたのが、入ってすぐのところに飾ってあったフィンランドツーリスト協会のリトグラフポスター(1948年)。フィンランドの四季が描かれているのですが、これがとてもいい。今すぐ、部屋に飾れそうな可愛らしさでした。これが70年前か……。いきなり、心に刺さります。

その後も、アアルトの「スツール60」。サイドテーブルとしても使えてスタックできるこのデザイン、これが原点……!

そして、曲線美が美しいイッタラの「サヴォイ・ヴェース」。このあたりも、見たことがある人は多いですよね。シンプルかつ、合理的で使いやすい、実用美が追いかけてくる。

こんな調子で、家具やガラス、ファブリック、広告、子ども向けインテリアプロダクト……と続きます。

  • 原点は自然、あるものを生かして

見ていくと、とにかく自然を生かしたプロダクトが多い。それもそのはず、フィンランドの国土の73%は森。そして、10%は湖や川といった水域。農業・工業・住居エリアは17%ほど。はっきり言えばほとんどが自然。

だからこそ、「大いなる自然と共にあるのが当たり前」という考え方があり、モチーフとしても木や水がふんだんに使われています。イッタラのグラスの有機的な曲線美も、やはり原点は自然。

さらに人口が550万人と少ないためか、人材教育も早期からスタート。1920年代には「グラフィックアート科」、1930年代には「テキスタイルアート学部」が登場。卒業生による広告代理店の起業、コンペティションの開催、活躍するクリエイターの登場……。

そして、これらのデザインの力はものづくりだけではなく、別の産業にも生かされます。それが観光。航空機の発達でヨーロッパから、自然を求める人を誘致したのです。洗練された広告デザインは、多くの人を惹きつけたことでしょう。うまいなぁ。

  • 自然のある暮らしを諦めない

もちろん第二次世界大戦後などは物資不足に苦しみながら、近代化を進めたフィンランド。そこで発達したのが、大量生産と実用性をキーワードとする機能主義によるシンプルで合理的なデザイン。スタックしやすい家具、釉薬だけで仕上げた食器などが生まれてきました。

これらの中からは、多くのロングセラー商品が生まれています。しかし、人々はより美しい暮らしを求めたそうで、さらに1つひとつのアイテムや暮らしのあり方が洗練されていきます。なんて、美意識が高いんだ、理想を捨てないんだ。

  • 気がつくとポートレイトが女性ばかり……?

もう一つ、個人的に気になったのが女性のポートレートの多さ。これはモデルになっているという意味ではありません。作り手として、並んでいる人の大多数が女性なんです。

撮影年が不明のものがほとんどですが、どう見ても1960年代からすでに活躍しているんですよね。さらに、マリメッコは女性の社会的地位を向上させた……という説明も。

こんなに早くから、女性クリエイターが中心になって活躍していて、さらにその作品がミラノトリエンナーレなどで賞賛を受けていたといいます。これは、女性の地位が高まりそうだ……。

北欧は女性が活躍しやすい社会だといいますが、そもそも国を担う重要な産業の中心を女性が担っていたら、尊重せざるを得ないですよね。

さらに面白かったのが、働く女性が増えたことで、保育所などが増え、子ども向けのインテリアプロダクトなどの需要が増えたということ。人が動くことが新たな需要を生み、産業が発展していくとは……。

  • 展示を見て考えた、わたしたちの暮らしと理想

日本と似ているのは、自然が豊かなところと、小さな空間で人々が暮らしている(いた)ところ。省スペースを求めると、シンプルデザインが発達していくのが面白い。

そして全然違うのが、理想に対する姿勢ではないでしょうか。

日本にいると、何かを尊重すると何かを失う、と感じることがよくあります。もちろんフィンランドも全てが理想通りということはなく、結果的にうまくいったという部分もあるし、内情ではまだまだたくさんの社会課題もあるはず(自殺率の高さなど……)。

けれど、「こういう暮らしがしたい、こういう社会であってほしい」という強い気持ちと諦めない心、そのために「自分たちが持っているものを生かす」という意志が、展示全体の流れから感じられました。

さまざまな資源のある豊かな日本。この数十年の経済的な停滞で、失ったものばかりに注目されてきました。足りないものはたくさんあるように感じますが、私たちが持っているものはまだまだいっぱいあるはず。

限られた持ち物や環境は、人をクリエイティブにしてくれるものですし、私たちはもっと理想に対してわがままになっていいんじゃないかなあ。

ということで、美しいデザインに癒され、そしてちょっとだけフィンランドの思想に触れ、前向きになることができたのでした。

ちなみに、Bunkamura ザ・ミュージアムは「ソール・ライター」や「甘美なるフランス」など、個人的に好みの展示が多く、いつも注目しています。

2022年は休館期間があるそうですが、秋にはイッタラ展を開催予定。これまた刺さりますね。楽しみ。

有限会社ノオト所属の編集者・ライター/ コワーキングスペース「Contentz」管理人。 テーマは働き方・学び方・メディア・朝ごはん など / 休日は喫茶店と東京宝塚劇場をうろうろ