大学卒業後に上京した私にとって、偉人の足音や歴史的な名所がいくつもある「東京」は、とても面白い。
大好きな神保町には文筆家の通った名店がいくつもあるし、商店街を歩いていても誰々の生家なんてものも唐突に現れることだってある。
先日も打ち合わせの帰りに驚いたのが、赤坂見附駅の近くに徳川吉宗ゆかりの地があるということだった。なんということだろう。この道を通った回数は20回はくだらないのに。石碑を見て、ようやっと気がついたのだ。
なぜ、徳川吉宗にそんなに心をときめかせたのか。私が2018年に読んでもっとも気に入った漫画が、よしながふみさんの「大奥」だったからである。ご存知の方も多い、映画化もされた有名作だ。
「大奥」という言葉の印象や、「よしながふみさんといえばBLでは?」と、引かないでほしい。
よしながふみ氏の描く大奥は、若い男性だけがかかる謎の奇病の流行という”大嘘”から、話は始まる。
ネタばれになるが、少しだけ。奇病の影響は町民だけではなく江戸幕府にもおよび3代将軍・徳川家光は死んでしまう。
そのため秘密裏に家光の隠し子・千恵が将軍になり、徐々に将軍や大名に女が立つことが当たり前になっていく。つまり、男女逆転世界の作品だ。
しかし、この”大嘘”が当時の江戸幕府の行なっていた政治と非常にうまく組み合わされている。
たとえば「鎖国」は欧米列強から男子の減った国内事情を隠すため、杉田玄白や前田良沢の「蘭学」の研究の目的も奇病解明に関わっているなどだ。既刊15巻だが、すでに大政奉還の気配が見えてきて、面白みを増している。
さらに将軍を支える側用人や幕閣である老中、将軍の正室である御台、大奥総取締なども、それぞれの個性を大変魅力的に描かれており、日本史の授業で文字として習った人々が立体的になるような感覚だ。
ちなみに私が本作の中で一番好きなのは、男装の天才女性として描かれた平賀源内であり、次点では身分の低いところから才覚で老中まで上り詰めた田沼意次である。
将軍の中では最初の苦労を背負わされた徳川家光(千恵)、賢君と名高い吉宗がお気に入りである。いずれも時代の波の中で強くたくましく生き、政を動かし、後継ぎを産まないといけない女将軍の姿はとてもかっこよい。
私は高校ではほとんど日本史を学んでいないので、日本の歴史に関する知識は、中学レベルである。しかし、そんなことは全く関係なく楽しめるし、なんならこれでちょっと江戸時代にハマりかけている。
歴史はついつい暗記科目と捉えられがちだが、実は「名作を楽しむ」「旅を楽しむ」「人生訓を学ぶ」程度でいいのではないか。「大奥」は、そんなふうにゆるやかに歴史を楽しめる作品である。
2018年は、大政奉還から150年の節目の年。今こそ、みんなで楽しみたい。きっと東京に散りばめられている、もっとたくさん歴史を楽しみたい。
東京のこういうところって本当にいいなあ、と思いながらオフィスへ戻るのだ。