日本の当たり前を見つめる

7月上旬にアメリカへ行ってきた。何か仕事上の特別な目的があるわけではなく、シンプルに夫との新婚旅行である。とはいえ、私にとって実は初めてのユーラシア大陸脱出だ。

本当に刺激的だった12日間を忘れたくないので、ここからできる限り、自分が考えたことを書き留めていきたいと思う。目標はエッセイを30本以上。どこまで続くだろうか。日常の忙しさとの勝負である。

さて、アメリカンドリームと言われた国から帰ってきて最初に思ったのは、「ああ、日本で暮らせる身でよかった」であった。

今回滞在したのはサンフランシスコ、ロサンゼルス、そしてラスベガス。どこも名の通った個性的な都市で、観光ガイドにもたくさんの情報が載っている。実際、毎日が新しいものに溢れていていた。

でも、旅行全体を俯瞰するととにかく印象に残ったのは、さまざまなゴミで汚れた道やテントを張るホームレス、道のどこからともなく漂うマリファナと思しき薬物の匂い。どう考えても近づいたらまずい人々、安心して乗れないバス……などの治安の悪さであった。

もちろん、治安はエリアによる。ロサンゼルスの高級住宅街・ビバリーヒルズあたりはとても綺麗だし、ラスベガスの中心地も観光客用によく整備されている。

でも、安価なバスや電車に乗れば、無賃乗車をしているホームレスや貧困層と思しき人々が車内で「Fワード」を何度も叫んでいたりして、とてもじゃないが落ち着かない。じゃあ、毎回Uberに乗る気になるかというと、個人旅行の予算や広すぎる都市、高すぎる物価を考えると悩んでしまう。夫と二人旅じゃなかったら、本当にどうしていたんだろう?

アメリカの主要都市は、この数年で特に治安が悪くなったと言われている。その背景にはコロナ禍や家賃の高騰などによる、ホームレスの急増があり、貧困に陥った彼らの抱える薬物依存などの問題への支援不足がある。思い返してみると、公共交通機関の乗客も有色人種の人や車椅子ユーザーも多く、白人男性などはほとんど見かけなかった。

社会福祉を専門とする、ワシントン大学セントルイス校のマーク・ランク教授の記事によると、「アメリカ人の4人に3人が、人生のどこかの段階で貧困または貧困に近い状態を経験する」という。なんて、恐ろしいのか……。身近すぎる。

もし私がアメリカに生まれていたら、果たして恵まれた立場にいられたんだろうか? 今のような暮らしができていたのだろうか? マイケル・サンデル氏の著書『実力も運のうち』が何度も頭の中にチラついた。

12日間の滞在を経て、成田空港から電車に乗った瞬間、ホッとした。なんて綺麗なんだ、そして安全だ、誰も叫んでいないし、おかしな人はいない。なんならしゃべっている人もいなさすぎるくらいだ。電車代も普通の金額だ。

今の私は日本にいれば仕事があり(日本語の参入障壁も大きい)、全体としては治安がいい場所に暮らせて、生活コストも高くない。当たり前だと思っていた前提条件は、世界一裕福な国アメリカに生まれていたら簡単には手に入らないものだった。

もちろん私たちの国にもさまざまな格差がある。でも、「そんなのは努力不足」などの言い方で放置していくと、一般の平均的な暮らしにも影響が出てくるのだろう。アメリカ滞在で感じた居心地の悪さは、格差が生み出すリアルだった。

今まで滞在してきた東南アジアの発展途上国ではなく、アメリカという大国の都市だからこそ、より鮮明で身近に感じられた。五感で、格差を感じた。せっかく海外にいく機会があったのだから、こういう体験を自分の投票行動などにも反映させていきたいと心底思うのであった。

有限会社ノオト所属の編集者・ライター/ コワーキングスペース「Contentz」管理人。 テーマは働き方・学び方・メディア・朝ごはん など / 休日は喫茶店と東京宝塚劇場をうろうろ