初っ端から、暗い話から始めてしまったアメリカ編。たった10日程度の中でも格差をより鮮明に感じたのは、偶然にも世界的セレブにも会ったからだと思う。
旅の中盤、ロサンゼルスにて。私と夫は、午前中から多くのハリウッドスターが暮らす街・ビバリーヒルズを歩いていた。どこもかしこも、綺麗に整えられた広い庭付きの住宅を少し覗くと、中にはプールまであり、玄関には「個人が契約している警備会社」の立て札がある。
日本だとイメージできないかが、セレブの家は観光地化されている。しかし、超巨大なため普通に散歩しているだけでは見ることができず、専門のツアーなども多数出ているそうだ。人の家を覗き見るのはどうかと思うけれど、自分の好きなスターの家が見られたら感動するだろう。さすがハリウッドである。
私たちはもともとそこまでセレブに興味がない。チラッとこの高級住宅街を見たら、近くにあるハイブランドが軒を連ねる「ロデオドライブ」というストリートを見て、次に向かうつもりだった。が、よく見てみるとバス亭の周りの公園が何か騒がしい。どうやら、誰かのコンサートがあるようで、ステージがセットされており、人だかりになっていた。
とはいえ限られた旅の時間。次に行くか、と思っていた頃、派手なカスタムカーに乗ったお時間が、近所の人と思しき人と会話をしていた。「リンゴーはもう来たか?」と尋ねる。ん、林檎? 誰だろう。
「もしかして、リンゴ・スター?」
そう言い出したのは夫だ。まさか。ビートルズじゃん。でも、そういえば、あのステージ「The Beatles」ってロゴが書いてあった……。そんな、まさか……。偶然、目の前の信号が変わったのもあって、私たちは近寄ってみることにした。
さっきよりも少し大きくなっていた人だかりの中に、「HAPPY BIRTH DAY, RINGO!!」という大きな立て看板を持った女性がいた。思わず、リンゴ・スターの誕生日を調べると……、今日だ!! どうやら、毎年正午にビバリーヒルズのオープンな公園(リンゴが寄付したピースサインの像がある)で、みんなでピース&ラブを叫ぶ誕生日会を開催しているそうだ。場所、時間が完全に一致したあまりの偶然。これ、マジで本物かも!!
驚いて近づくと、ちょうど目の前に順番に取材を受ける本人がいた。取材陣と友人ゲストだけが入れる柵はあるが、一般人もすぐ近くでギャラリーができる。その時点で本人との距離は3メートルないくらい。に、肉声が聞こえる……。
笑顔、ユーモアを交えて喋っている様子、白いジェケットで背筋はピンと伸びていて、かっこいい。とても85歳とは思えない。というか、めちゃくちゃ目の前にいる〜〜〜! 人生で出会った、一番有名な人だ〜〜〜!
そんなふうにテンションが上がった私たちは、予定を変更してリンゴの誕生日会に参加することにした。そのまま正午を迎えるまでの約1時間は、豪華なゲストからのお祝いの演奏やトークもあり、飽きさせない時間だった。ビートルズの名曲『Yellow Submarine』など、私でも知っている曲(リンゴがリードボーカルの曲だったらしい)を会場中で歌う。ゲストはイーグルスである。
ギャラリーをしていた一般人には、記念のリストバンドが配られて。正午になったら、みんなではめて、ピース&ラブを叫んだ。幸せな空気に満ちている。ちなみにこの様子はYouTubeで配信されている。
この時間、私はひたすら圧倒されてしまった。世界的スターって、こんなオープンなことしてるんだな。日本じゃ考えられないかも……。
帰国後、私はずっとビートルズを聴いている。名曲の赤盤の2023年リミックスを再生して、「この曲もビートルズだったんだ」と気づくことも程度のど素人である。でも、リンゴのことを思い出していると聴いていてすごく楽しい。1960年代のアーティストとは思えない、圧倒的な力があった。
きっと、この誕生日会は私にとってのThe Beatlesの原点になるんだろうな。ああ、ラッキーだった……。しかも英語力的にも意外と聞き取れるレベルになった今、出会えた喜び。これから、私の人生にThe Beatlesの音楽がある。なんて、素敵な出会いなんだろう。リンゴ、お誕生日会を開いてくれて本当にありがとう!!