家族の政治観についていけるか

アカデミー賞のリストは面白い。過去の受賞リストは映画史に残る名作ばかりだし、最新の受賞は世相を覗くことができる。今年、長編ドキュメンタリー賞を取った『ナワリヌイ』もまさにそんな作品だった。

ロシアの政治家、アレクセイ・ナワリヌイは飛行機の中で何者かに毒殺されかけた。そこに至るまでの本人と家族、支援者の状況、そして戦い方を描いたアメリカ・CNN制作のドキュメンタリー映画である。

制作者の鋭いインタビューもいいが、特にロシア政府の関係者に本人が電話をして探りを入れていく場面は緊迫感がすごい。最初の数名は勘づかれて逃げられるが、最後にかけた科学者は思わず犯行の手口などを話してしまう。その様子は録画され、YouTubeで公開されている。(ちなみに、ナワリヌイ側で科学者の保護を試みたが見つからないらしい)

今回、アメリカ制作の映画っぽいなと感じたのが、妻や娘といった家族へのインタビューがふんだんに盛り込まれているところだった。ナワリヌイ氏は、もともと信頼できる少人数のチームを組んでいるそうで、その筆頭が妻である。毅然とマスコミに立ち向かう妻・ユリヤ氏の姿は非常に印象的だった。

自分の夫や父が、こんなふうに命を狙われているというのはどんな感覚なんだろうか。こんな立場になるなんて、考えてもみないだろう。クーリエ・ジャポンの記事によると、出会った頃はこういう活動家ではなかったらしい。

家族の政治観についていけるか、考えてしまう。だけど、こうなった以上は自分も命を狙われる危険性があるわけだし、ともに自分の運命を受け入れてやっていく……という感じだろうか。あまり描かれていなかったけれど、子ども含めて、それぞれの意思が尊重されているといいなと思った。

もし私が家族の立場だったら、こんなに強く、賢く、ユーモラスに立ち向かう自信はない。いや、自信がなくてもやらないといけない立場になればやるんだろうか。登場人物の人生どどれもすごい。ナワリヌイ氏が、刑務所から出られることを望む。

有限会社ノオト所属の編集者・ライター/ コワーキングスペース「Contentz」管理人。 テーマは働き方・学び方・メディア・朝ごはん など / 休日は喫茶店と東京宝塚劇場をうろうろ