大和和紀さんの漫画「はいからさんが通る」は、今年2017年は宝塚歌劇による舞台化(←チケット即完売で手に入らず……)や38年ぶりのアニメ映画化(←正直不安な気持ちで観にいったら、最高だった)とさまざまな展開があり、ファンの間では静か(!?)に、大盛りあがりしています。
12月某日、東京は本郷にある弥生美術館・竹久夢二美術館で開催された「『はいからさんが通る』 展 ~大正♡乙女らいふ×大和和紀ワールド!~」を見て来ました。
ちなみに20代半ばの割と硬派な原作ファンから見ると、今回の展示は副題がちょっとハッピーすぎて照れるので、半端な意識のファンは寄せつけない作戦なのか……と思いましたが、意外とそんなこともなく男女問わず幅広い年齢の方で賑わっており、グッズなどもとっくに完売でした。
正直なところ、ファンから見れば2016年に開催された「大和和紀 画業50周年記念原画展」と展示内容は、かなり被りがあったと思います。
しかし、しかし……!! 「はいからさんが通る」の時代の背景を、開催場所である竹久夢二記念館とうまく絡めて説明していたのが印象的。個人的にはとてもお腹いっぱいになりました。展示は12月24日まで。忘れないように、その見どころをまとめます。
展示は1、2階のツーフロア。2階の展示室の前には撮影用のパネルが。私が行った時は、編集長・青江冬星でした。(時期によって変わる)
↓50年記念展の時は、全員集合でしたね。
●展示の中心は、原作を知らなくても、ストーリーがわかる名シーン原画
本展示の大半を締めるのが、約200点を展示する原画展。取り上げられていたのは、下記の11シーンです。(※ネタバレが嫌な人はスキップしてくださいね!!)
・婚約者・忍との運命の出会い
・幼馴染・蘭丸とのかけおち騒動!
・少尉、愛の告白
・少尉の戦死、紅緒の決意
・冬星との出会い
・紅緒の投獄事件⁉︎(←このあたりの原画が、1番ときめいた)
・冬星&紅緒の結婚式
・関東大震災…そして少尉との再会
・少尉と紅緒の再会
・少尉 vs 冬星Ⅱ
・ハッピーエンド
どれもかなりのページ数を紹介しており、原作のファンではなくても、見ているうちに「はいからさんが通る」の主軸になるストーリーのポイントがうまく掴めるような、すごく上手なシーン選定で、ちょっと感動。久しぶりに原作を読んで、もう一度、感動。
●「大正らいふ」というだけあり、時代背景がわかる展示
しかし今回の展示はただそれだけではなく、「舞台となった大正の時代背景にまつわる展示が原画名シーンの間に入っている」のです。
たとえば、
・女学校のシーンでは、当時の女学生の姿を、当時の写真や雑誌などの資料を使い解説
・職業婦人とはどういう意味なのか?
・結婚式のシーンのところでは、当時の結婚式の様子の写真
など
そのほかにも主人公・紅緒と友人・環をテーマにした袴コーディネートや1932年製造(?)の自転車の展示も。
説明を読むと、この時代はまだ自転車は高価だったため、自転車に乗る女学生は生意気と言われ、嫌がらせをされることもあったのだとか。つらい……。こういう話を聞くと、さらにストーリーの冒頭で紅緒が自転車に乗るシーンの意味を感じます。
●「はいからさん」は、ネガティブな言葉!?
またタイトルにもなっている「はいからさん」は、当時は「西洋的、進歩的」以外にも「貞操観念のない」というネガティブな印象も含む言葉だったという説明にもびっくり。そういう逆境の中で、強く生きようとする主人公って本当にいいですよね。
当時はショートヘアにするのも勇気がいるものだったそうなので、紅緒が一気に髪を切るシーンなども、意味の深みが出ます。
さらに知らなかったのですが、当時「職業夫人」という言葉は、事務員、店員、バスガール、新聞記者、医者や看護師などの仕事人を指し、女工や肉体労働系仕事は含まれてなかったんだとか。つまり職業夫人と呼ばれる仕事は、それまで女性が就いてなかった新しい仕事なんですね。働くのは結婚までの短い間とはいえ、まだまだ働く女性への偏見がある時代だったそう。今なら耐えられないな〜。
また、その時代に女性解放を唱え、原作では環が傾倒する平塚雷鳥さんについても説明がありました。心中未遂事件やら年下の恋人との事実婚など、新しい女性としての生き方を唱えた彼女は、無口でおとなしい女性だったらしいです。こういうのを歴史で習った方が頭に入る気がする(笑)
また、他に新しい女性像として紹介されていた神近市子さん、望月百合子さん、波多野秋子さんは、どの方も新聞記者や婦人公論の記者だったそう。紅緒も雑誌記者なので、記者って当時は女性が輝けるお仕事だったんですね!
いずれにせよ、当時の新しい女性像というのは、仕事にアツく、恋にもアツく生きる人が多かったそう。いいですよね、どっちかではなくて、どっちも選ぶ!というエネルギー溢れてますね。
そのほか、「あさきゆめみし」「イシュタルの娘〜小野於通伝〜」などの原画の展示も多数。いずれにしろ、優美な世界に目を癒されて、大枠の観覧を終えました。
併設のカフェでもハイカラさんっぽいメニューがあり、凝ってる。(食べれませんでしたが、シベリアっていうお菓子を選んだのも、少尉のシベリア出兵とかけているだろうか……)
●開催場所との相性、抜群すぎます……!
今回の展示の開催場所は、弥生美術館・竹久夢二美術館。実は、竹久夢二さんの名前は原作にも登場しています。
明治末から大正に活躍した挿絵画家であり、「美人画」でも有名な竹久夢二。原作で紅緒がショッピングに行こうとした「港や」は、夢二デザインの日傘や半襟、絵葉書、千代紙などがあった店だそう。
また美術館自体が竹久夢二に縁のある菊富士ホテルをイメージして作られたのだとか。どおりで、凝った外観だと思った!(ちなみに夢二も、新聞社に勤めたことがあるそうです)
さらに同館内では、大正から昭和に活躍したイラストレーター高畠華宵さんの「モダンガールのおしゃれ日記」という展示も。はいからさんが通るのラストである関東大震災以降に「はいからさん」から「モダンガール」という言葉へ時代が移りゆくさまも、紹介されていました。(下記写真は、高畠華宵さんの作品)
展示以外のところまで、たっぷり楽しませてもらいました。はぁ〜、満足。
以上、「はいからさんが通る展」が楽しかったというお話でした。