目立った観光地ではない地域出身者がついつい使ってしまうのが「地元には、何もないんだよね」という言葉。
身近な場所ほど、何もない。何も期待してない。でも実は「身近な場所ほど、知らない」だけかもしれません。
私が育ったのは、名古屋まで電車で10分という超好立地、だけど誰もが名前を知っているような街ではない愛知県一宮市。そんな一宮で見つけたのが「Re-TAiL(リテイル)」というビルです。
Re-TAiLは、他では手に入らないような布や個性的なアクセサリーとも出会えるレトロビル
Re-TAiLは、1933年に繊維組合事務所として建てられたレトロビルを2016年春に改装したもの。コンセプトは、「せんいのまちの、せんいのビル。」
建物の内外部は、繊維組合事務所をほぼ完全に残しています。そのため、窓のデザインなどや廊下も趣があります。
繊維やファッション、デザインのアトリエやショップが入っており、他にもイベントスペースや展示・撮影ができる場所も。他にも、完全予約制の洋服リフォーム店や、バッグスクール、レザープリントができるデザイン工場など20以上の企業が協力しているそう。
私がお伺いした日には、大きなマーケットが開かれており、多くの人が”尾州の端切れ”を求めて、ここに訪れていました。
この布を出店しているのは、さまざまなアパレルメーカーに布を販売している会社。そのため、普通の手芸店では絶対に手に入らない布がたくさんあり、手芸愛好家やファッション科の学生などが買い物に来ることも多いそう。
小物としても可愛らしいイヤリングやピアスなどのアクセサリーの取り扱いもあり、私もついつい心をくすぐられてしまいました。
きっかけは、レトロな趣が溢れるこのビルが一時は解体の危機にあったこと
そんなRe-TAiLがはじまったきっかけは、このビルが2014年に解体の危機にあったことでした。
レトロな可愛らしさをもち、近代化産業遺産にも登録されているこのビルですが、中に入っていた団体が、近くの商工会議所に移転することになったため、一時は解体の危機に。
そこでこの場所を活かそうと、ある織物を扱う事業をしていた会社の方の呼びかけで始まったのが、それぞれの企業の中で余っていた”端切れ”の販売会でした。
参考:【愛知】繊維協会ビル解体危機 一宮・1933年築の洋館 | 中日旅行ナビ ぶらっ人 :
BtoBビジネスのため、”尾州”の毛織物は認知度が低い
そもそも愛知県一宮市は、昔からスーツなどでも使われる布地である毛織物の世界有数の産地。日本国内ではもちろんトップで、生産量の約8割を占めています。
ところが愛知県北西部、尾張地方「尾州(びしゅう)の毛織物」を知っている人はなかなかいません。なぜなら尾州の毛織物は直接消費者に届く商品ではなく、企業やデザイナーに直接布を売るBtoBのビジネスであるため。
例えばタオルで有名な今治ならば、「今治タオル」という商品が直接消費者に届けられるので名前が有名になります。
尾州の商品は超有名な百貨店の消費品や世界的なブランドに素材が使われています。聞くところによると、一宮にはシャネルに100反以上の布を卸している企業もあるのだとか。しかし、シャネルの商品を買う人々には”尾州”という名前が届きません。
ところが端切れの販売会ならば、尾州の毛織り物を多くの消費者に届けられます。そして端切れを買う側も、普通のお店では手に入らないような布を買うことができる。その影響か、第一回目の販売回では、主催の方もびっくりするほどの人数があつまったそうです。
そして2016年、その販売を常設にし、今のRe-TAiLにつながっていったそう。
やっぱり地元の産業が栄えていると嬉しい
私が小学校の社会の授業で習ったのは、「一宮市の毛織り物産業は以前は栄えていましたが、今は廃れました」という悲しいお話ばかり。
そんなことをを小学生から刷り込まれているので、私にとっては毛織り物産業はすっかり過去のものになっていました。
20年以上住んでいましたが、市民としてはこんな風にカッコよく活躍している一宮の企業があるなんて全然知りませんでした。
市民が自分の街を魅力的に思えると、ほっておいても他の人に自慢をしたくなります。そうすると、街の魅力はどんどん広まっていくのではないでしょうか。
短い滞在時間でしたが、私自身もしばらくは離れていた自分の街の素敵なところが見られてよかったなーと思います。
地元には何もない。たまにはそんな枠を飛び越えて、自分の街の面白さを探しに行くのはいかがでしょうか?