設定のインパクトに負けないで! 池田理代子『おにいさまへ…』はすごく読む価値がある名作だった


『ベルサイユのばら』で有名な池田理代子先生の作品『おにいさまへ…』(全2巻)を初めて読みました。

10年近く前から存在を知っていたのですが、やっと手に取った作品。後述しますが「どう考えても、設定だけでお腹いっぱい」な作品なんです……。

しかし、しかし! そんなことは忘れて思い切って読んだら、これが非常に面白い! 大変な良作! 気持ちを忘れないうちに書評として残しておこうと思います。

●少女漫画的要素が盛り込まれまくった「あらすじ」

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主人公・奈々子は、名門女子高校・青蘭学園にこの春、合格したばかり。青蘭学園には、家柄や容姿に優れた人だけが入れる社交クラブ<ソロリティ>という仕組みがありました。ところが選ばれるはずのない奈々子が、急にソロリティに抜擢され……!? 
薫の君とサン・ジュストというあだ名の男装(風)の麗人も登場。不可解な二人の行動には行ったどんな意味があるのか? ソロリティの女王・一ノ宮蕗子嬢にも何か秘密があるようで……!
複雑な人間関係が織りなす、愛憎うずまく衝撃の学園ロマン。
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「薫の君(源氏物語に登場する、光源氏と葵の上の息子。生まれた時から薫るような少年だったのでこの名前に)もサン・ジュスト(フランス革命ごろに登場する政治家。美形であだ名が「死の大天使」)も、女子高生につけるあだ名じゃないでしょ!?」とかは、とりあえず置いておいておく。

ところが、その強引さが全く気にならない、むしろそれがストーリーの中で完璧に機能していきます。

●全く無駄がない! 構成が素晴らしい!

まずは、とにかく構成が素晴らしい! この物語に出てくるキャラクターには、無駄がない。短い話だというのもありますが、それぞれのキャラクターが重要な役割を持っていて、ストーリーの中でしっかりと存在感を発揮してくる。

冒頭は、奈々子が受験勉強を教えてくれたT大生・辺見武彦に「おにいさまになってほしい」と伝え、文通をするシーンから始まります。(これが、タイトルのおにいさまへ…のお兄さんですね)

この手紙の存在から、最後のオチまでが完璧。手紙という小道具さえも、物語をグッと引き締めるのに活用されている。読み終わった時、本当に感動しました。

●この頃の池田理代子先生の絵が好きすぎる

『ベルサイユのばら』を執筆していた頃、池田理代子先生は25〜6才。そして本作『おにいさまへ…』の頃は27才。当時の池田先生の絵は、本当に少女漫画の王道を突き進むテイスト。例えば、髪の毛はくるくる、目はキラキラ、まつ毛はめちゃくちゃ長くてバッサバサ……みたいな。
もちろん絵の好き嫌いは分かれるのは承知の上ですが、この少女漫画王道の美しいテイストがあるからこそ、「愛」と「死」の絡みあうメンヘラたちの重たすぎるストーリーすら読み込ませてしまうのです。

●繰り返し読むほど、心に響く。少なくとも3周は読みたい

この素晴らしい構成と絵のおかげで、何度読んでも発見があります。私の場合は、こんな感じでした。

1周目は、サスペンス。登場人物の思惑が全く読めず、次々に起こる事件にハラハラドキドキ。ときに心を動かされ、悲劇的な運命に悲しみ……。詳しくは言いませんが、たった2巻の学園ものなのに重要な登場人物が2人も亡くなってしまいます……。なんてこった、普通に衝撃。えええええ!!???!!?? みたいな展開です。

2周目は、全ての謎が解けたところで、それぞれのキャラクターの発するセリフの意味や裏打ちされた想いを読み込みます……。なんてこった、こんなところからこの展開を匂わせていたのか……!とびっくりする描写も。そしてラストに近づくにつれ、「人を愛するとはなんなんだ!?」「人はなぜ生まれてくるんだ!?」みたいな気持ちになります。

3周目は、「うわあ、絵が綺麗だなぁ。薫の君のこの表情、とーっても素敵……! 幸せ〜〜〜!」って感じです。これくらい時間が経つと、重いストーリーのダメージから解放され、池田理代子先生のイラストの美しさにやっと興じることができます、多分。
まだ3回しか読んでませんが、これから先はキャラクターたちが違った角度から見えてきそう。何が善で何が悪なのか。読み直したら見方が変わりそうな作品でした。

●設定で敬遠せずに、読もう

私はこういう重くて、やたら考えさせてくるテーマを、大変美麗なテイストで表現し語りかけてくる少女漫画が大好きなんですよね。(そのため最近の少女漫画よりも、いわゆる「懐かし系少女漫画」が好みです)

本作の設定は、そんな私でも「うっ……」と引いてしまいましたが、まごうことなき名作であり、池田理代子さんの代表作と呼ぶにふさわしい作品でした。もっと早く読めばよかった〜!

もしご興味を持った方は、ぜひ手に取ってみてくださいね。